スタジオヘッド塩川の創遊話 ~DSS制作スタッフインタビュー~ 第2回 コミックマーケット95 オリジナルFGOグッズ 企画開発担当

DELiGHTWORKS SWALLOWTAIL Studios(略称:DSS)スタジオヘッドの塩川洋介が自らDSSの制作スタッフや、制作にご協力いただいたクリエイターにインタビューを行う「スタジオヘッド塩川の創遊話 ~DSS制作スタッフインタビュー~」。

第4回目は、2017年12月に日本でリリースされ、2019年に英語版が配信された『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』のプロデューサーを務めた伊藤優希が登場。開発中のエピソードや、入社してから過ごした2年間の模様を語った。

ジュエリー販売員からゲーム業界のディレクター、
そしてプロデューサーへ

塩川:今回は『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』をテーマに、プロデューサーを担当した伊藤優希さんにインタビューを行いたいと思います。

伊藤:よろしくお願いします。

塩川:一口に“プロデューサー”と言っても、業務内容は多岐に渡りますよね。

伊藤:そうですね。いわゆるプロジェクトの総責任者として、ゲームを開発するうえでの予算確保や管理、そのほか外部パートナーとの契約交渉・書類作成などが主な業務です。開発や、ビジネスなど、社内外様々なやりとりが発生するので、よく駆け回っています(笑)。なかでも予算管理は、プロジェクト発足の際などに制作委員会や社内の経営陣に対して、きちんと理論立ててプレゼンで承認をいただく必要があるため、資料の作成は特に気を遣っています。

塩川:ディライトワークスの入社前は、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

伊藤:実は、もともと私はジュエリー業界で販売の仕事をしていました。お客様のご要望をお聞きしながら、マンツーマンでジュエリーを販売していくという内容でした。

塩川:まったくの別業界だったのですね。ちなみにゲーム業界に移ったのはいつですか?

伊藤:いまから5年ほど前です。ジュエリー業界で働いていたとき、休憩中に遊んでいたスマートフォンゲームにハマり、そこからゲーム業界に興味を持ち始めるようになりました。

塩川:それまでゲームはよく遊んでいたのですか?

伊藤:子供のころからコンシューマゲームが大好きでしたが、まだその当時は仕事にしようとは思っていませんでした。スマートフォンゲームに対しても「お手軽過ぎるから、きっと自分は向いていないだろう」という印象を抱いていましたが、いざ遊んでみると、これが面白くて。そして、当時遊んでいたスマートフォンゲームの会社にディレクター職として入社しました。異業種からの転職希望だったので、自分の熱意を一生懸命伝えて、採用していただきました。

塩川:当時はどのような業務を担当していたのでしょう?

伊藤:女性向けゲームのディレクターを3年ほど担当していました。最初はアシスタントとして、シナリオのプロット作りからはじめて、その後はシナリオ・イラスト・演出のディレクションを担当するようになりました。そして、他ジャンルのゲームも手掛けてみたいという思いが募り、2017年4月にディライトワークスに転職しました。

塩川:応募職種はディレクター?

伊藤:はい。自身の経験を生かしてディレクター職で応募したのですが、実は最終面接で社長の庄司から「プロデューサーに挑戦してみませんか?」というお話をいただいたのです。

塩川:いきなりその話を聞いたとき、どう感じましたか?

伊藤:正直なところ、まだ当時はプロデューサーという職業が、具体的にどのようなことを行っているのかわかりませんでした。ただ、私の転職のきっかけは、「新しいことに挑戦したい」「自分のスキルアップに繋げたい」という目標があったので、そこは躊躇せずに“まずはやってみよう”の精神でプロデューサーとして入社しました。

塩川:入社後、最初に担当した業務は?

伊藤:最初はアシスタントプロデューサーとして上長のプロジェクトを一緒に手掛けていました。そこからゆっくりプロデューサーとしてのスキルを身に着けていこうと思っていたのですが、入社2ヵ月目のある日、庄司から『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』のプロデューサーのお話をいただきました。もう本当に突然で驚きました(笑)。

塩川:リリースの約半年前にプロデューサーに任命されたということですね。

伊藤:そうですね。『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』の当時の開発状況は、2017年3月に開催されたアニメイベント「AnimeJapan 2017」の『Fate/Grand Order』のブースで初めての体験会を行った後、それを受けて更なるクオリティアップを目指した「マシュ・キリエライト VRドラマ」の開発と、新規で「アルトリア・ペンドラゴン VRドラマ」の開発がスタートしたタイミングでした。

2017年4月から6月にかけては、「マシュ・キリエライト VRドラマ」のブラッシュアップ作業を行い、「さて『アルトリア・ペンドラゴン VRドラマ』の開発を始めよう」となっているときに、入社2ヵ月目の新米プロデューサーの私に白羽の矢が立ったという流れです。

VR体験を楽しんでいただくために国内外を巡る

塩川:“FGO PROJECT”と“PlayStation®VRタイトル”に関わったことになりますが、それぞれで感じたことを教えてください。

伊藤:FGO PROJECTの特徴は、テキストの一字一句に気を配るところですね。たとえば、公式サイトのお知らせのテキストひとつとっても、大変神経を使って作業しています。“神は細部に宿る”と言いますが、そうした細かいところまでも配慮しているからこそ、クオリティの高いコンテンツの創出に繋がると考えています。

塩川:たしかにFGO PROJECTでは、お知らせなどのテキストにも相当気を配っていますね。それはなぜでしょう?

伊藤:『Fate/Grand Order』は、『Fate』という世界観があっての作品です。その世界観を大きく崩したり、台無しにしてしまうことは、たとえ『Fate』という大きな世界の中の、ひとつの作品でのできごとであっても、お客様をがっかりさせてしまいます。

『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』には、いつも『Fate/Grand Order』を楽しんでくださっているお客様に、より『Fate/Grand Order』の世界を楽しんでいただくことや、日ごろのお客様への感謝の気持ちをお伝えするという目的があります。それがどうすれば伝わるのかを考えたとき、自然と細かいテキストにおいても気を配るようになりました。こういった小さな積み重ねが、結果的にクリエイティブに反映されていくものだと思っています。

塩川:PlayStation®VRのプロジェクトとしてはいかがでしたか?

伊藤:もう未知の世界でしたね。

なかでも苦労したのは、“酔いの審査”です。たとえば、スピード感溢れる演出で、ブラックホールの中に突っ込んでいくような“レイシフト”のシーンでは、社内のスタッフから開発中にそのシーンで酔ってしまうという声がありました。ほかにも、「アルトリア・ペンドラゴン VRドラマ」でブランコをこぐアルトリアを目で追う際に、視点が左右に揺れて酔ってしまうなど、VRならではの気を付ける箇所が多々ありましたね。

塩川:そんな中、「アルトリア・ペンドラゴン VRドラマ」は開発開始から約半年間ほどでリリースに至りましたね。

伊藤:はい。タイトなスケジュールでしたが、「みんな頑張って! 私もみんなが創りたい物を実現させるための環境を整えるよ!」と、プロデューサーの役割を果たしながら開発メンバーを鼓舞していました。

塩川:大変な状況をどのように乗り越えたのでしょうか?

伊藤:開発後期になるにつれて、各所で体験会を開催する機会を増やしていったのですが、そこで実際にお客様が体験したときのリアクションを目の当たりにしたことで、モチベーションが一気に上がりました。また、お客様のリアクションを見ていると、どこで驚いたり、笑ったりしてくださっているのか、初めて体験する方ならではの感想をいただけたので、それをすぐにチームにも共有して開発に活かすなど、体験会はいろいろな面で貴重な機会となりました。

塩川:体験会は全国で開催していましたね。どのように運営していたのでしょうか?

伊藤:基本的には、私や開発スタッフなどチームのメンバーで資料を作成し、実際のお客様の対応はイベントの運営サイドにお任せしていました。なかには例外もあり、たとえば、徳島県で開催されるイベント「マチ★アソビ」では、機材の搬入から会場の設営、当日のお客様の対応、撤収作業までを、プロジェクトに関わるスタッフが総出で取り組みました。それこそ、開発チームのプロジェクトマネージャーや、パブリッシャーのアニプレックスさんまで協力いただいただきましたね。これはなかなかない体験です(笑)。

塩川:自分たちで設営して間近でお客様のリアクションを見られたと思いますが、いかがでしたか?

伊藤:やはりPlayStation®VRを装着した瞬間のリアクションは印象的でした。みなさんマシュを目の当たりにしたときに、「かわいい……っ!」と声をもらし、噛み締めるように体験してくださったのが印象的でした。ずっとニコニコして体験してくださっているお客様を見た瞬間は、本当に嬉しかったです!

塩川:そうした体験会を経て、2017年12月にPlayStation®4でリリースされましたが、その時の心境は?

伊藤:「やっとリリースできたー!」という気持ちもありましたが、プロデューサーとしては「ここからが勝負」と身を引き締める思いにもなりました。

開発メンバーはリリースがひとつのゴールですが、プロデューサーは完成した作品を世に広めていくことが仕事でもあります。より多くのお客様に作品を体験していただくためのプロモーションを行ったり、年始にかけてリリース後も体験会を積極的に開催したりと、息つく暇はまだありませんでした。

塩川:プロモーションではどのような工夫をしましたか?

伊藤:リリース直前に、スマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』において、『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』のキービジュアルをゲーム内でサーヴァントが装備できる“概念礼装”というアイテムとして配布するクエストを展開したり、その中のクエストの楽曲も『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』で流れるものを使用しました。なかでも楽曲に関しては、初出しだったこともあり、お客様から「新しい曲だ!」「この曲好き!」などと言っていただけました。

あとは、同じくリリース直前にYouTube上で360度動画も公開しました。端末を動かすと、一緒に映像も動くようになっており、VRの疑似体験が楽しめるとこちらも話題になりました。

塩川:スマートフォンなどの端末からVRの疑似体験ができるのはいいですよね。

伊藤:そうですね。VRを体験するためには、どうしてもハードウェアなどの機材を揃えて、広い空間でセッティングするなど、いろいろ初期投資がかかるものです。そこで、少しでもVRを身近に感じていただきたいと思い、リリース前に360度動画を配信しました。

塩川:360度動画にはどのようなコメントが届きましたか?

伊藤:意外にも海外の方からのコメントが多かったことが印象的です。それも英語だけではなく、様々な言語が入り混じっていて、「これは海外でも配信を待ち望んでいるお客様がいるのでは?」とグローバル展開の可能性を感じた瞬間でもありましたね。

塩川:2018年夏にはロサンゼルスで開催された「Anime Expo 2018」にも『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』を出展しましたね。

伊藤:はい、国内で開催するのとは状況や文化がまったく違い、大変でした。ブースがなかなか完成せず、できあがったのが、お客様が入場する2時間前という(苦笑)。

塩川:これまた胃が痛くなる話ですね。海外のお客様ならではのリアクションはありましたか?

伊藤:やっぱりリアクションが大きかったですね。「Wow!!」と驚いたり、お連れ様もモニターに映った体験者の方の視点を、興味津々で覗き込んだりと、体験されるのはお一人ですが、そのリアクションが周囲に拡散しているようで、会期中の4日間はたくさんの方にお越しいただきました。

塩川:英語版の配信をもってプロジェクトはひと段落しましたが、振り返ってみて、一番苦労したことはなんでしたか?

伊藤:予算管理ですね。最初の仕事は予算を確保することから始まりました。就任後に「はじめまして、プロデューサーを務めることになった伊藤です。」という自己紹介と「このプロジェクトのための予算をいただきたいのですが……」という話を同時にするのは勇気がいりました(苦笑)。しかし、承認いただかないと作品が完成しないので、そこは勇気を出してプレゼンに臨みました。大変ではありましたが、プロデューサーとしての貴重な経験を積めたところでもありました。

塩川:良かったことは?

伊藤:私はプロジェクトに途中参加だったため、まずはメンバーとの人間関係の構築からスタートしました。加えて新米プロデューサーということもあり、きちんと自身の仕事を全うしているのか、ということを何度も自問自答したものです。ただ、開発を終えたときに、メンバーから「プロデューサーが頑張ってくれたから完成した」という声をかけてもらえたときはようやく一息ついた瞬間でしたね。

塩川:そんな経験も踏まえた、現在のお仕事は?

伊藤:詳しくは申し上げられませんが、新規プロジェクトを担当しています。開発規模は、これまでの倍以上の人数です。なるべく早めにお客様にお届けしたいとは思っていますが、作業を早めることを重視しすぎてクオリティが落ちてしまっては本末転倒なので、まずはクオリティ最優先でプロジェクトを進めていきたいと思います。お客様に楽しんでいただけるという絶対の自信を持って取り組んでいますので、そのときまでお待ちいただければと思っております。

思いやりとポジティブ思考の開発現場

塩川:伊藤さんが所属するDELiGHTWORKS SWALLOWTAIL Studios(通称:DSS)は、どういう人たちが集まっていますか?

伊藤:DSSの特徴的なところは、いろいろなキャリアを持った人がいることですね。私ももともとジュエリー業界出身ですし、イベント司会者をやっていた人など、本当に十人十色という感じです。ただ、キャリアは違うけれど、共通する部分としては、みんな仕事に対してタフです。手を緩めずに、妥協で物事を考えない人たちだと思います。そんなみんなの姿を見て、ときおり私も襟を正しています。

塩川:なるほど。

伊藤:ゲームの制作では、日々様々な意見の交換が行われます。ひとつひとつのことをネガティブにとらえて悩んでしまうと辛いので、ポジティブ思考は大事だと思っています。

塩川:現在DSSでは様々な職種の人材を募集していますが、伊藤さんから見て一緒に働きたいと思うのはどのような方でしょうか?

伊藤:常々感じることですが、チームの“和”を尊重していただける方ですね。ゲームの開発にはたくさんの人が関わっていて、異なる価値観やポジションを持つ人たちが集まっています。しかし開発はチームワークが重要ですので、自分優先では決してチームは成り立ちません。きちんと相手を思いやったり、リスペクトを持ったりして、同じゴールに向かって走れる方と一緒に働きたいですね。

塩川:実際にプロデューサー職では、どのようなスキルや経験、考え方が必要なのでしょうか?

伊藤:まずは物事を俯瞰して見られるスキルですね。自分の主観や人から聞いた話を主体にするのではなく、客観的な視点で物事を考えたり、プロジェクト全体を見回せたりすることが求められると思います。

また、クリエイティブに関しては、どうしても開発メンバーに作業をお願いしなければならないため、人を応援できるスキルは必要だと思います。作業がうまく進まないことに関して、「この人はできない」と決めつけるのではなく、スムーズに作業をしてもらうためにはどうしたらいいのか、なにか困っていることがあるのではないかなど、人を応援する気持ちが自ずとプロジェクトを好循環させる要素を担います。

塩川:俯瞰するスキルに関して、伊藤さんはどのようにして実現していますか?

伊藤:たとえばトラブルや議論の際に、一方の話だけで落着させないようにしています。「Aさんがこう言っていた」とはせずに、感情抜きで事象を切り出して、起こってしまったことの整理と対処、それが再発しないようにどうするかを考えています。

塩川:そんなプロデューサーの仕事の醍醐味とは?

伊藤:ハイリスクハイリターンです。

塩川:その意図は……?

伊藤:あ、決して悪い意味ではありません(笑)。そもそも私のプロデューサー経験はディライトワークスがはじめてなのですが、実際に働いてみると「私ってもっと頑張れたんだな……」と思ったものです。今は私の人生のなかで、最も高いレベルを求められる環境だと思っています。ただ、求められる分、自分が達成できたら成長にも繋がるし、評価もしていただけます。プロジェクトの責任者であるため責任は重大ですが、作品をリリースすれば紛れもない実績になります。

塩川:これから伊藤さんはどんなことに挑戦していきたいですか?

伊藤:いずれ自社オリジナルのタイトルを手掛けることが夢です。自社タイトルは自分たちで考えたルールやブランディングで成長させていかなければなりません。そのためにもプロデューサーとしての経験値を積み重ねていきたいと思いますし、日々の業務をおざなりにせず、1日1日を真摯に受け止めながら業務に臨んでいきたいと思っています。

塩川:では、最後に読者にメッセージをお願いします。

伊藤:ディライトワークスは、新しいことに挑戦できる場を与えてくれる会社です。もしも、「この先自分は何者にもなれないのでは」とモヤモヤを抱えていたり、新しいことに挑戦したい方には、このうえなくいい環境だと思います。なおかつ、ディライトワークスはその挑戦を応援してくれる会社でもあります。

働いているスタッフもお互いを気にかけていて、落ち込んでいるときにチーム内外に関わらず「どうしたの? 飲みに行く!?」と気軽に声をかけてくれるときもあります。本当はみんなも自分のことで手一杯のはずなのですが、周囲を思いやる気持ちをそれぞれが持っているのだと感じました。

塩川:今日はありがとうございました。

伊藤:こちらこそありがとうございました。

©TYPE-MOON / FGO PROJECT
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